遺産を分割するには

Q 亡き母名義の不動産と預金の名義変更をしたいのですが,弟が応じてくれません。母の遺言はありません。どうすればよいのでしょうか?

 

A 

 ①まずは話し合いです。それで解決できなければ

 ②家裁に遺産分割調停を申し立てます。調停が成立しない場合は

 ③審判といって裁判官が法律に基づいて強制的に分割します。

 

 以上のように,話し合い,調停,審判の3ステップです。調停は,お母様の死亡時の住所地の家裁に申し立てます。もし,いわきでお亡くなりなら,いわきの家裁に調停申立書を提出します。

 遺言がある場合はそれに沿って遺産を分配しますので,遺産分割協議や調停にならないことがあります。

 

分割の方法

遺言がなければ,法律に従った割合で相続となります。お父様がご存命で兄弟2人なら,お父様が2分の1,兄弟が各4分の1を相続します。兄弟2人のみが相続人なら,単純に半分こです。

実際の分配は,不動産を売ってそのお金を上記の割合で分けるか,誰かが不動産を取得してその対価を他の相続人に払うことになります。

 

理論上は,寄与分や特別受益といって,例えばお母様に生活費を渡していたとか、お母様から結婚資金として500万円もらったといった,誰かが遺産の維持に貢献したとか,既に生前贈与を受けているなどの事情があれば,上記の相続分の割合は修正されます。ただし,家族間のことですので証拠がない場合が多く,裁判官の裁量の余地も大きいので,修正要素をあてにすることは危険です。

 

分割に適さない場合

①相続人に難しい人がいる

 当事者に行方不明者や重度の認知症など意思表示できない者がいる場合,財産管理人や後見人をたてる手続を先にやらなければなりません。弁護士に依頼するなら,これだけで20万くらいはかかってしまいます。

 また,曾祖父名の遺産分割など相続人が10人20人と多数の場合,話し合いは物理的に事実上不可能です。家裁で遺産分割ではなく,形式的に時効取得というかたちで地裁で民事訴訟することを検討する必要があります。

 

②代償金を捻出できない

 例えばお父様が遺産に居住していて,今後も居住を継続したいが,ほかの相続人に代償金を払えない場合,遺産分割がそのまま進んで決裂すれば,お父様が家を売ってその代金を分ける結末になりかねません。自分や味方となる相続人が遺産を使用している場合は,遺産分割を自分から積極的に進めるかどうかは注意を要します。

 

 

 

遺産分割のポイント

◆遺産全部について遺言がある場合は,そもそも遺産分割ではありません。注意しましょう。遺言にしたがって分配し,場合によっては遺留分減殺請求といって遺言の一部を無効にする手続をとるのみです。

 

◆遺産分割調停をする場合でも,遺産が売却可能かどうか,特に自分や味方となる相続人が遺産を使っている場合は代償金の支払の可否を事前に検討する必要があります。代償金を払えないのに調停を申し立てても,手詰まりになるだけです。

 

◆遺産分割調停となった場合,ポイントは①不動産の価値 ②特別受益や寄与分の有無の2つです。不動産は,不動産屋さんに頼んで事前に査定書を作ってもらい,だいたいの金額を把握しておきましょう。

 また,相手が被相続人を介護していたとか生活費を出していた場合,自分が被相続人にまとまったお金をもらっていた場合,それらの主張がされることがあります。②を含めた話に持って行きガチンコでやりあうことが自分に有利に働くかどうか,慎重に検討する必要があります。

 

弁護士費用についてのコメント

遺産総額が1億円で,法定相続分がその4分の1(2500万円)の場合,着手金が50~100万円,報酬金が100~200万円あたりが相場と思われます(「新版ガイドブック 弁護士報酬」より)。遺産分割調停は拘束時間が長いため,遺産が少ないケースでも着手金30万円くらいはかかることが多い印象です。

 

税務

◆平成27年以降の相続の場合,遺産が,3000万円+600万円×法定相続人数を超えると相続税の納付義務が生じることがあります。相続開始を知った日から10箇月以内に申告しなければなりませんが,期限までに遺産分割協議が調わない場合,法定相続分により取得したものとしてとりあえず申告し,その後に更正の請求をすることになります。

 

◆換価分割といって,遺産を売却してその代金を分ける分割方法をとった場合,値上がり益があれば相続税とは別に譲渡所得税がかかることがあります。