弁護士費用は経費になるか

 

 Q 事業に関する紛争の解決を弁護士に依頼した場合,個人事業の所得の経費になりますか?

 

 A 

 

【民事事件】

原則としてなりますが,いくつか例外があります。資産に係る紛争であれば紛争があることを予想しながら取得した場合,あとは故意又は重過失によって他人の権利を侵害した場合などは,経費になりません。詳しくはこちらの通達を参照してください。

 

 例えば,事業主が業務に関して部下に叱責のうえ暴行した場合,これは故意ですから,その民事の損害賠償請求交渉に関する弁護士費用は経費算入できないということになります。裁判の結果,「暴行が存在しなかった」となれば,故意も過失もありえませんので,経費算入できることになります。

 

【刑事事件】

 刑事事件の弁護士費用については,業務の遂行上生じた刑事事件で,処分を受けないまたは無罪が確定した場合に限って経費算入ができるという通達になっています。ですから,上記の暴行の例で罰金10万円の刑となった場合などは,刑事弁護費用は経費に算入できないというのが通達の扱いです。

 

 

【顧問料や相談料】

わざわざ明記している文献はありませんが,社労士報酬や税理士報酬など一般の経費と同じく,「事業の遂行に必要であれば」経費算入できるものと思われます。

 

 

【所得税法施行令】

(必要経費に算入されない損害賠償金の範囲)

 

第九十八条  法第四十五条第一項第七号 (必要経費とされない損害賠償金)に規定する政令で定める損害賠償金(これに類するものを含む。)は、同項第一号 に掲げる経費に該当する損害賠償金(これに類するものを含む。以下この条において同じ。)のほか、不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に関連して、故意又は重大な過失によつて他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金とする。

 

 

【通達】

(民事事件に関する費用)

37-25 業務を営む者が当該業務の遂行上生じた紛争又は当該業務の用に供されている資産につき生じた紛争を解決するために支出した弁護士の報酬その他の費用は、次に掲げるようなものを除き、その支出をした日の属する年分(山林に関するもので、当該山林の管理費その他その育成に要した費用とされるものは、当該山林の伐採又は譲渡の日の属する年分)の当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入する。

 

(1) その取得の時において既に紛争の生じている資産に係る当該紛争又はその取得後紛争を生ずることが予想される資産につき生じた当該紛争に係るもので、これらの資産の取得費とされるもの

 

(注) これらの資産の取得費とされるものには、例えば、その所有権の帰属につき紛争の生じている資産を購入し、その紛争を解決してその所有権を完全に自己に帰属させた場合の費用や現に第三者が賃借している資産で、それを業務の用に供するため当該第三者を立ち退かせる必要があるものを購入して当該第三者を立ち退かせた場合の費用がある。

 

(2) 山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡に関する紛争に係るもの

 

(注) 譲渡契約の効力に関する紛争において当該契約が成立することとされた場合の費用は、その資産の譲渡に係る所得の金額の計算上譲渡に要した費用とされる。

 

(3) 法第45条第1項《家事関連費等の必要経費不算入等》の規定により必要経費に算入されない同項第2号から第5号までに掲げる租税公課に関する紛争に係るもの

 

(4) 他人の権利を侵害したことによる損害賠償金(これに類するものを含む。)で、法第45条第1項の規定により必要経費に算入されない同項第7号に掲げるものに関する紛争に係るもの

 

(刑事事件に関する費用)

37-26 業務を営む者が当該業務の遂行に関連する行為について刑罰法令違反の疑いを受けた場合における弁護士の報酬その他その事件の処理のため支出した費用は、当該違反がないものとされ、若しくはその違反に対する処分を受けないこととなり、又は無罪の判決が確定した場合に限り、必要経費に算入する。

 (注) 必要経費に算入される費用は、その違反がないものとされ、若しくは処分を受けないこととなり、又は無罪の判決が確定した日の属する年分とその費用を支出すべきことが確定した日の属する年分とのいずれかの年分の必要経費に算入することができる。