ヨガクラスと会員規約

あっしのヨガクラス,予約制,チケット制なんですが。

予約,すっぽかす人がいるんですよね。

しばきたおしていいでしょうか。

ん,キャンセル料とっていいのかにゃ?

あ,残りのチケット全部無効にして,出入り禁止。

こういうの,アリ?

戸川弁護士

会員規約的なものは,あるの?

規約?

なにそれ,おいしいの?

戸川弁護士

紙だから,おいしくはないと思います。

食べたら,たぶん,下痢になると思う。

戸川弁護士

予約のキャンセルはいつまでで。

キャンセル料はあるのか,ないのか。いくらなのか。

戸川弁護士

キミが病気で長らくクラスを停止した場合は?

生徒さんがケガで長らくクラスを出れない場合は?

チケットはどうなるの?

戸川弁護士

クラス中に変な宗教の勧誘を生徒が始めたら?

高価品を生徒が持ち込んで盗難騒ぎが起きたら?

戸川弁護士

やっていいこと,悪いこと。

きちんと線引きしておかないと。

戸川弁護士

紛争になった場合,よりどころがなくなっちゃうよ。

そういえば,ヨガマットの営業始めた生徒さんがいたな・・・・あれはうざかった。

よし,キャンセル料は10万円という規約をつくるにゃ!

戸川弁護士

・・・・そういう,極端なのは。

消費者契約法ってやつで無効になるね。

戸川弁護士

常識的な内容にしてね。

 

1 基礎知識

 大手のヨガスクールやスポーツクラブに行くと,必ず会員規約にサインさせられると思います。会員規約があり,生徒がそれに同意していれば,ヨガ教師・生徒間の関係を規律する法的基礎となります。たとえば,「予約のキャンセルは当日の2時間前まで」という規約にしたら,原則はそれが有効となります。

 

 また,「ここにこう書いてあるでしょ!」と言ってクレームを説得する拠り所となるため,法律云々を抜きにしてもクレーム対策としても規約はとても重要です。

 

 ただし,事業者消費者間の契約は消費者契約法が適用され,不当かつ一方的に事業者つまりインストラクター側に有利な規約は,無効となります(同法10条)。また,「平均的な損害額」を超えるキャンセル料の規定も無効です(同法9条)。

 

2 具体例

(1)納めた会費は理由の如何を問わず返金しない

  事業者側に帰責性があれば返金する事態がありうるため,無効と考えられます。

(2)クラス内での事故について一切責任を負わない

   事業者の責任を全部免除する規定は無効(同法8条)です。

(3)クラス内での事故について,事業者に責任があれば賠償を行うが,賠償額の上限は3000円とする

   事業者の責任全部免除に限りなく近いので,やはり無効の可能性が高いと思われます。

 

3 規約に最低限,記載しておくべき事項

  継続的なクラス規約を作成するの場合,下記を盛り込んでおくべきです。著名スポーツクラブの規約を参考にするとよいでしょう。

 

(1)会費をいつまでに,どうやって払うか(振込,現金)

(2)事故やケガ,盗難等に対する(一部の)免責

(3)生徒の禁止事項(暴言,病気での参加,営業活動,高価品の持ち込みなど)

 

 継続的であったりそこそこのクラス規模の場合は,下記も入れておくとよいでしょう。

(4)予約制の場合,キャンセルや解約の条件・ルール

(5)休業する場合の会費の取り扱い

(6)規約改定の可否と方法

 

 

 

4 規約締結の効果

(1)生徒さんとの間で民事の裁判となった場合,原則,規約にしたがった結論となります。ただし,消費者契約法に違反する条項は,無効,つまり存在していないものとして扱われます。

 

(2)消費者契約法に違反する条項がある場合,消費者庁や消費者団体から,是正指導を受け,かつ公表される可能性があります。

 

 

5 実際上の注意点

 ヨガクラスは,養成講座を除き単価が低いので,生徒さんと裁判になるようなケースはあまりないでしょう。

 よって,法律云々というより,お互いが気持ちよくクラス運営できるよう,キャンセルや禁止事項を紙に書いて整理し,同意する旨のサインをもらうとよいと思います。

 

 

 

アドバンス法律知識

 

1 生徒もインストラクターの場合

 事業者間の契約となるので消費者契約法の適用がありません。が,生徒が「事業者」と言える必要があります。ほとんど活動していないインストラクターや雇用されているインストラクターが生徒の場合は,消費者扱いとなる可能性が高いです。

 

2 入会金の不返還の規約は有効?

 入学辞退しても「入学金は返さない」という大学や専門学校の規約は有効とされています(最高裁平成18年11月17日。入学し得る地位を取得するための対価。)。ヨガクラスの入会金に応用可能かは不明ですが,養成講座など長期的なクラスの席確保の対価であれば,不返還が許容される余地があるように思います。

 また,入学辞退しても「授業料も返さない」という規約は,補欠入学者を容易に確保できる時期より前の解約についてであれば,無効(平均的な損害額が存在しない)とも判示しています。

 

3 適格消費者団体という存在

 適格消費者団体という消費者庁の監督を受ける団体があり,不当な規約については,消費者ではなくその団体が是正指導・提訴することがあります。しかし,団体側が敗訴する裁判例もそこそこ公表されており,結構無理な運用がされているようです。