ヤマとは

 

 アヒンサ,ブラフマチャルヤ,アパリグラハの具体的な内容は,実は多義的で分かりにくいですよね。

 

1 非暴力(アヒンサ)

 

【①ヴィヴェーカーナンダ184頁】

「もし人が他者をきずつけない,という理想に到達するなら,彼の前では猛獣さえも,おだやかになるだろう」

 

【④サッチダナンダ209頁】

「”アヒンサ―”は,"苦痛をひき起こさないこと”である。注釈家の中にはこれを"不殺生”と訳す人もいるが,そうではない。”ヒンサー”は”苦痛をひき起こすこと”,したがってアヒンサ―は苦痛をひき起こさないことだ。苦痛をひき起こすことは殺すことよりも悪い場合がある。」

 

【私見】

アヒンサ―を,単に「非暴力」と訳する本が多数だが,他者を傷つけずに生きるというのは,不可能ですよね。歯磨きすれば虫歯菌が多数死滅しますし,果物を食べれば果物の細胞が死ぬし,植物ですら地中で縄張り争いをしています。したがって,「生きていくうえで必要な殺生や暴力は許容される」という解釈をとらざるをえないはずです。

 不要な苦しみをひき起こさないこと,という解釈以外,成り立つ余地はないように思います。

 

 

2 正直(サティヤ)

  真実を述べる,ということで争いはない。もっとも,生涯にわたって厳格に守るには相当の覚悟と努力が必要だろう。

 

3 不盗(アスティヤ)

  盗まない,ということで争いはない。現代社会では,他人の仕事の成果の横取り,著作権法違反,雑誌の立ち読みなどに留意すべきであろう。

 

4 禁欲(ブラフマチャリア)

 

【①ヴィヴェーカーナンダ185頁】

「純潔な頭脳は,すさまじいエネルギーと,巨人的な意志の力を持つ。純潔を欠いたら,そこには霊性の力はない。」

 

【③メーレ156頁】

「インドでは,通常性行為によって消耗されるエネルギーが変容して,もっと高次の目的のために使われると考えられている。」

 

【⑤サッチダナンダ226頁】

「禁欲つまり独身生活を確立することで,われわれはエネルギーを保存する。」「精液は脳と神経にスタミナを与える。神経衰弱はスタミナが流出して不足するから起こるのだ」

 

【⑥本山博29頁】

「一定期間,異性と性的交渉をもたないことです。」

 

【⑦ヴィディヤーランカール120,121頁】

「ブラフマチャルヤbrahmacaryaという語はしばしば性的節制という狭義に解釈されます。こうした解釈の混乱は,このスートラに精液という意味もあるヴィールヤという単語が出てくるので,なおさら増幅されます。」「『ブラフマンの中で生活すること』がブラフマチャルヤbrahmacarya(Brahmanー神,caryaー生活する)という単語の本当の意味です。無限なる者と調和して,内にも外にも抗争のない生活を送るときに,性欲を含め基本的な本能の統御が自然に可能になってくるのです。」

 

【私見】

 浮気しない,性的な慎みを保つ,といった,緩めた解釈をよく見かけます。しかし,ブラフマチャルヤの効果は,「エネルギーや活力を得る」ことであると書いてあります。そこから推測するに,普通に性生活を送ってよいというよりかは,直截的に「精液を放出しないこと」と解釈すべきでしょう。中国では房中術が発達していますが,精液を出さずに性交するのが基本であり,共通しています。

 

 

5 不貪(アパリグラハ)

 

【①ヴィヴェーカーナンダ186頁】

「人が贈り物を受けないとき,彼は他者のせわにはならず,独立かつ自由の境遇にいつづける。」

 

【②佐保田102頁】

「不貪(アパリグラハ)とは,最小限度の必需品以外はもたないことである。」

 

【③サッチダナンダ232頁】

「”アパリグラハ”は,貪欲と秘蔵ーそれは盗みの一種であるーを慎むこと,あるいは贈与を受けないことである。」「贈与を受けることがわれわれを縛り,われわれの中立性を奪う。」

 

【⑦ヴィディヤーランカール121頁】

「非所有」と訳されている。

 

【私見】

 単に,むさぼらない,というような,知足と重なる解釈をとると,8つの戒をたてた意味がなくなってしまうから,それらとは別の解釈をとらなければならないはずです。よって,「贈与を受けない」という趣旨に解さざるをえないと思います。

 とはいえ,贈与をなぜ受けてはいけないのかは,謎です。サッチダナンダらが言うように,(純粋でない)贈与を受けると,こころが乱されるからでしょうか・・・インドでは賄賂が多いからねえ。

 

 

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