ヨガのケガと賠償責任

ええとですね。

生徒さんのだんなさんが押しかけて来てまして。

あっしのヨガクラスで,「妻がケガをした,会費返せ」と。

にゃーにゃー言ってくるのですが。

どうしたもんか。

戸川弁護士

ええっと,何でケガしたのかな?

ハンドスタンドの練習で。

倒れてとなりの生徒とぶつかったにゃ。

左肉球損傷・・・うそです。

人間の生徒さんです。左前腕打撲,だって。

戸川弁護士

本人のヨガ歴,運動歴は?

・・・・えーっと,ヨガは1か月目だったかな。

普段あんまり運動しない,50代女性。

戸川弁護士

アウトっぽいね。

そんな初心者にハンドスタンドはきついでしょう。

・・・たまにハンドスタンド,やるんすよ。

場が盛り上がりますし。

・・・・でも,ちょっと不用意だったかにゃ。

会費を返さなきゃ,あかんのですかね。

戸川弁護士

法的には,会費を返す返さないではなくて。

医療費などがいくらか,という話になるね。

戸川弁護士

ヨガ教師を名乗るなら。

本人の力量を見極めて,それに合わせた指導をしないとね。

戸川弁護士

キミは,指導者向けの保険には入ってないのかな?

・・・・あ,そういえば,入ってましたわ。

パンフレット,確認してみます。

 

1 基礎知識

 

(1)過失がある場合

 過失,つまり「事故やケガを予見できたのに,回避行動をせず」,生徒にけがなどの損害が生じた場合,インストラクターに対する損害賠償請求(医療費,慰謝料など)が認められる可能性があります。

 例えば,スタジオの床が陥没しているのに気づいていながらクラスを続行し,結果,その床にはまって生徒がケガをした場合。完全な初心者にハンドスタンドなど困難ポーズを準備なくさせてケガをさせた場合などが典型です。

 

(2)過失がない場合 

 インストラクターは責任を負いません。たとえば,木のポーズをとっている最中に震度6の地震が起きて生徒が転んでケガした場合,生徒同士が勝手にじゃれあってケガした場合など,インストラクターがケガを予見できない場合,あるいはインストラクターの指導とケガが関係ない場合です。

 

 

 

2 実際上の対処

 

 過失なしとされるためには,下記のような配慮が必要です。

 

〇指導内容

 易しい代替ポーズの紹介。易しいポーズから難しいポーズへ,段階的な移行。本人の経験年数・フィットネスレベル(普段運動をしている・していない)や柔軟性に合わせた指導。特に,初心者や高齢者,難易度の高い逆転ポーズは要注意。

 特殊な病気保有者や妊婦については,クラス前に医者の意見を聴取させ,実施の許可を得る。可能なら,そのエビデンス(何月何日にどこの医者にヨガOKと言われた,というメモを残しておくなど)も確保する。クレーム防止のため,家族の承諾も得ておくと,なおよい。

 

〇物理的環境

 温度を適切に設定し,マット間の間をあける。補助具や逆転練習用マットを準備する。

 

〇心理的環境

 顔色が悪い,疲れていると思われる場合,休憩ポーズを随時促す。「お水を飲みましょう」という時間を随時設ける(特にホットヨガ)。休憩してよい,という雰囲気作りが大切です。

 

 

3 保険をかける

  高齢者や子供など怪我しやすい者相手の指導,サップヨガやリトリートなど日常的でない環境下での指導,アクロバットなポーズを指導する場合は,重篤な事故が起こりえるので,保険加入が推奨されます。

 

 訴訟社会の米国では,ヨガインストラクターは,当然のように保険に加入しているようです。下記の本,「プロフェッショナルヨーガ」(マーク・カン著,ガイアブックス)の「ヨーガを教える」の項では,場所の確保の記述のあとに,保険に入ろう,という記述が出てきます。つまり,教える前,集客の前に当然に入るべき事項という位置づけなわけです。

 

 

 保険に加入していれば,保険会社が「インストラクターに賠償責任あり≒インストラクターに過失あり」と判断した場合,保険会社が生徒に賠償をしてくれます。

 

 

 

アドバンス法律知識

1 賠償金額の概要

 

〇実際にかかった医療費

〇仕事のある生徒がケガで休業したら,その減給分

〇入院や通院期間による慰謝料(1か月入院で50万円程度,死亡の場合で2500万円など,目安はあります)

〇後遺症が残った場合,残った後遺症の性質に応じた慰謝料など

 

の支払が必要となります。ただし,生徒側にも落ち度がある場合(たとえば,ケガをおして練習に無理して参加したなど),過失相殺といって,賠償額が数割,減額されることがあります。

 ただし,法律論を知らない方や軽いけがの場合は,治療費や慰謝料ではなく,会費を返すことを請求してくることが実際は多いです。

 

 

2 参考裁判例(東京地裁八王子支部平成14年9月11日)

 腰痛体操指導者が生徒に右脚を押すアジャストを加え,生徒が頚椎捻挫等受傷。指導者は生徒にアジャストするとの「予告することもなく,徐々に力を加えるなどの配慮もしないで,背側からいきなり力を加えた」ので過失があるとし,指導者及びその雇用主の社協の双方の責任を裁判所は認めた。

 賠償額は,下記の合計59万6516円を認めた。

 

〇治療費2万6690円

〇通院交通費3100円

〇休業損害14万4685円

〇慰謝料30万円

〇弁護士費用10万円

 

 アジャストをするときは,予告して,弱めから始めましょう。

 

 

3 ヨガでよくあるケガ・苦情

  事故情報データバンクシステムというのがあるので,ここで「ヨガ」で検索すると,だいたいの目星がつきます。「ホットヨガで気分が悪くなった」がものすごく多いですね。あとは,腰や肩を痛めた・・・も頻出です。